ちゅうぱぁちゃっぷす1話Bprt
とある世界、どこまでも広い海、いつまでも透きとおる空。そこに、その二つと一体化し、完全になった少女がいた。そこには人がいなかった。人どころか何もなかった。そんなもの、完全を崩すノイズでしかない。そして、少女には記憶がなかった。無いことで完全を保っていた…しかし、ふと少女の前にひとかけらの記憶がうつった。
………木と肉の焦げる臭い、まるでおかしくなった様に燃える町。そんな中、おそらく人であったであろう炭の前で泣き崩れる自分………
それを見たとたん、少女は完全ではなくなった。
今日は『ムーンリード学園』の高等進学試験。同学年全員が顔を合わせる数少ないイベントだ。この学園は一学年200人前後で、幼等部から大学まであるちょっぴり大きな学園だ。この学園は、高等部から個々の能力に合わせ、教室を別けるので、その能力を今測ろうというのだ。
「なお、まあ無いと思うが、この試験に落ちると中学三年生をもう一度やるはめになるので気を抜かぬように。注意は以上だ。何か質問はあるか?無いな。では名前を呼ばれたら指定された部屋に速やかに移動するように」
どこかいいかげんな説明が終わり、次々に名前と指定された部屋を読みあげられる。それぞれの緊張した表情が、何とも初々しい。
「次、月詠~。月詠 恍(つきよみ こう)理事長室へ、急げ」
「はーい。ふわぁぁぁぁぁぁ。」
急げと言われてるのに呼ばれた本人は呑気に間の抜けたあくびをしている。しかしこの少女、パッと見少年にも見える。しかし、腰まで伸びた長い白髪(はくはつ)と、胸のわずかな膨らみが、少年であることを必死に否定している。 朝、時間がなかったのか、ところどころ寝ぐせがついている。ただ単に無頓着なだけかもしれないが、、、。
恍はダルそうに廊下を進むと『理事長室』とプレートの貼られた部屋の前にきた。理事長、それは学園のすべての権力を握り、学園を運営する責任者のトップである。恍は部屋の前で少し考え込むように固まり、呆れたように扉を開いた。
「ohhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh 恍、恍、恍、愛しの恍。よくきたねええええ。」
そう言いながら抱きついてきた白髪(しらが)まじりの凛々しいおじさまが恍の父親、兼学園の創設者であり、現理事長である。極度のドタコンで知られている。
「理事長、殴られますよ。」
呟くように理事長に警告した黒髪のいかにも秘書みたいなかっこをしたキレーなお姉ちゃんは、理事長の秘書である。
だがもう時遅し、理事長は腹を抱えてその場にしゃがみこんだ。
「何をするんだ恍、、、寮で暮らす娘の身を案じる父親の心がまだわからんのか~」
「なにを言う。どこの世界に娘の身を案じてストーカー紛いなことをする父親がいる」
「ば、ばれていたのか!!いてっ痛い痛いよ恍ちゃん。ゆるして、お願い」
理事長の行き過ぎた行動に腹を立て、鼻を容赦なく抓る。
「次またやったらこれじゃ済まないよ」
本気の殺意の目、まあ、年頃だし、しかたない。だが、
「君にならいくらでも」
上着を破り、鍛え抜かれた肉体を露わにする。みぞおちにはどでかい傷跡がある。
「ウザイ」恍は口には出さず無視をすることで留めた。
「で、試験内容は?」
忘れていたが恍は進学試験を受けに来たのだ。
恍の言葉で我に返ったのか、理事長が真面目な顔にかわった。
「ああ、それだったな。」
理事長はおもむろに本棚から一冊の本を取り出した。
「これを読め。そして戻って来い」
理事長が恍に渡したのは『不思議の国のアリス』だった。読んだ事は無くても話の内容は知っているだろう有名な話だ。恍も昔、寝るときにこの父親に読んでもらった記憶がある。
恍が本を開くとやわらかい風がふいた。本に目をおとすと何も書かれていなかった。いくらページをめくっても、最初から最後まで何も書かれてはいなかった。まるで、文字が逃げ出した様に綺麗なはくしだった。
「理事長、なんだよこれ。」
恍は本を理事長に返そうとした。しかし、そこに理事長の姿はなかった。あるのは広い草原と、吸い込まれそうな空だけだった。
少し考えていると、遠くから白く長い耳が見えた。兎かと思った。しかしその仮定はすぐに否定された。
「いそがなきゃ、いそがなきゃ」
そんな妙に色っぽい声が兎と思われる者から発せられている。
「いそがなきゃ、遅れちゃう、いそがなきゃ」
もう恍は現実を認めたあれは兎。否、バニー服の妙に色っぽいお姉さんだ。恍には無い物を揺らしながらこちらに向かってくる。恍は走った。よくは解らないが、敗北感が全身を襲い恍を暴走へと導いたのだ。少し走ると穴に落ちた。
「なるほど、こうゆうことか」
恍は何かを納得した。
穴に落ちたはいいが、落ちている感覚がない。むしろ登っていく感覚がする。何分落ちただろうか、やっと底に着いた。真っ暗だった。何も見えないそんな中、うすぼんやりと光る物があった。扉っぽいが、人に見える。怖いので無視することにした。
「ちょ、ちょっと~、まってよ~、人がわざわざ解りやすいように光って導いてるのにひどしょ~、おねが~いムシはやめて~」
なにか可哀そうになってきたのでその間延びした声の主のもとへ向かった。
「なにかよう?というより此処は何処?」
「ようも何も、迷子のお嬢さんを導こうとしただけじゃないか。わたしは扉なんだから」
「扉?」
「Yes,I am. 他に何に見える?」
「…ふくよかなおばちゃん」
「……きゃははははははは 何言ってるの。あんたは先へ行きゃなきゃならないんだから早く行きなさいな」
おばちゃんは恍の正直な感想を耳にすると少し間をおき笑いだしたと思うと、いきなり恍を抱きしめた。恍は必死に抵抗したが、力が入らず顔から体の中にのめり込んでいった。窮屈なのは最初だった。
おばちゃんの体はすぐに抜けられた。
爪先が抜けたところで恍はおかしな感覚に気ずく。重力を微塵も感じないのだ。それなのに頭から真っ逆さまに落ちているのだ。恍は気持ち悪くなり目をつっぶた。
少したつとやわらかいそよ風がほうにあたった。恍は恐る恐る目をあけるとそこには花畑があった。いや、森という表現の方があっているだろう。なにせその花が樹齢数百年の巨木程の大きさなのだ。森の方があっている。
「あら、珍しいお客さんね」
恍があまりの状況に言葉を失っていると後ろから声がした。とっさに声の方を睨むと液たばこをふかしている女がいた。20代半ばのOL風な女性だ。彼女は巨大な花びらにもたれかかり、なにやら名簿を点けていた。
「ここは何処だ」
「あなたお名前は?」
「質問に答えろ」
「見て解らない?というか名前」
「解らないから訊いているんだ」
「名前教えてよ、こっちも仕事なんだから。教えてくれたら質問に答えるわ」
恍はこのままじゃらちが明かないと静かな怒りを抑え、むっすと名乗った。
「うふっ、案外素直ね。おねーさんそういう子好きよ。ボ・ウ・ヤ?」
……この人は悪くない自分は男と間違われても仕方がないんだ。恍はそう自分に言い聞かせて心をなだめた。
「で、ここは?」
知らず知らずか、その言葉にはさっきよりも殺意が込められている。
「見た通りよ!」
お姉さんの
名簿が粉砕した。
「も~、荒っぽいわね。これあげるから自分で調べて」
恍はお姉さんから謎のタマゴを譲り受けた。途端に寄りかかっていた花びらが生ものに変わった。
「っちょ、こっこ、これ以上はご勘弁を、、、」
頬になにかがかすり血が垂れる。
「地図です、磁石、食糧。では、わたくしっはこれで。おげんきで」
お姉さんはそう言い残すと地を這って逃げ出した。その姿はまるで芋虫だった。
「まっ、いいか」
思った以上の収入があったのであっさり機嫌が直った。
貰った地図を開くと矢印がかいてあった。